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緻密さとエネルギッシュさ

アナログレコードを再生すると不思議に熱気というかライブ感というか、そういう生々しさが表現される。


アキュフェーズのプリメインアンプE-370とE-270の2台を自宅で比較試聴した。


ひとことで表現すると


E-270はポップス、ジャズ向き

E-370は完全にクラシック向き


ということである。


それは以前、自宅で比較試聴した「アキュフェーズDP-750」と「ソウルノートD-2」の違いに近い。

DP-750はオールジャンルOKなのだが、やはりクラシック向き

D-2は圧倒的なほどジャズ(ポップス)ヴォーカル向き


クラシックをD-2で再生すると「実にうるさい!」ので聴いていられない。しかしいったんヴォーカルを再生させると圧倒的なまでに魅了させる。「やられたぁ!」と叫ばせるほど熱気にあふれたサウンドが波動砲のようにドッカーンと身体を揺り動かす。

一方で、ヴォーカルをDP-750で再生すると「全帯域がキレイになり過ぎてヴォーカルが引っ込む」のでヴォーカル帯域のライブ感、エネルギー感が大幅に低減する。


音の前後左右の表現力はDP-750が優れている。高域の伸びも750の方が素直である。しかし、同社の伝統を見事に受け継ぎ、そしてみごとに昇華させたソウルノート新作DAC D-2は、音場・空間表現が、あくまで750と比較すれば多少劣るだけであって、D-2の緻密なライブ感は、いままであまり聴いたことがないレベルであった。ライブ感と緻密さが同居しているとは、なんとも罪作りな音質だ。

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誠に残念なことは、自室に持ち込まれたソウルノートD-2は試聴開始して2時間以上経過したあたりから内臓の大きな電源トランスがうなりはじめた。色々な家電の電源をOFFにして唸り音を消そうと努力してみたが無理であった。設計者の話によれば、唸らないようにトランスを設計して搭載すると「音の精気が失われるから」だそうで、確かにソウルノートは目が醒めるような波動砲的サウンドで、アキュフェーズとは真逆の音作りがなされていると痛感した。




さて、プリメインアンプの比較に話を戻す。


アキュフェーズE-270という末弟アンプはそもそも海外ユーザーの要望を中心に展開されていたモデルラインと聞く。270本体が全ラインナップで唯一「薄型」であるのも海外モデルである証拠のようだ。言われてみると、確かに、ミュージカルフィデリティにしてもオーラにしても、美的センス豊かな欧州アンプは全て薄型である。


したがって、E-270の音傾向も海外ユーザー寄りになっていることは明白である。当然アキュフェーズの音色傾向は感じられるが、上位モデルE-370そしてE-480とは明らかに違うと感じる。


E-270はよく知られているところの「アキュフェーズらしい緻密、高SN、無味無臭」を感じさせるような音作りではなく、より抑揚豊かに、よりおおらかに音楽を表現する。細かいニュアンスはそれほど表現されないので、いわゆる2H鉛筆の描画的サウンドではない。むしろ3B鉛筆的、いや4B的に近い。(ちなみにMcintoshアンプは7B以上(笑)。)ポップスやジャズではリズミカルな表現をするのでとても聴きやすいが、クラシックでは大味になる。別にクラシック再生が駄目ということはないが、あくまで比較上のこと。



一方で、E-370は(270と比べたらという話だが)その緻密さ、小さな音に聴き手を吸い付かせるような高SN感にあふれている。アキュフェーズお得意のボリュームAVAAは270、370も両方搭載しているが、その魅力は370から大いに発揮されていようか。

抑揚感・おおらかさは抑えられ、細かい表現が、極めて小ボリュームから充実して聴き取れる。先程E-270は3B鉛筆的と表現したが、比べると、明らかにE-370は2H鉛筆的である。実にきめ細やかな音が再生されるので、クラシック再生は抜群である。しかし、ポップスとなると、リズム表現を得意とせず、ヴォーカルが引っ込んでしまう。270よりも370は分解能が高く、高解像度であるが故に、どうしても聴きどころが掴みにくい。ジャズでもそれは当てはまる。ノリノリな音楽には淡白すぎて、しらける感じすらある。


この感じは、アナログレコードとデジタルとの関係に近いように思う。デジタルに比べて、アナログ再生みたく情報量が少なくなると、音楽が平面的になるのだが、巧みにコントロールされたアナログ再生の場合には、実に生々しく、エネルギッシュに音楽を語り始める。この辺りがオーディオを面白くさせている。


単純に「高音質化していけば良い」とはならない。当然価格が上がればそれに比例して分解能が高まり、必然的に情報量が増加する。情報量が増加すれば、音は立体的になり、より緻密な表現が可能になる。


だからといって、高額がもたらす緻密さがエネルギッシュさをもたらすといえば、否。


ことはそう容易くない。


オーディオは果てしない。


by bachcantata | 2019-04-20 17:05 | オーディオ

Mcintosh XRT後は、ソナスファベール・アマティとガルネリを使い分けてイタリアの風を嗜む。デジタルデトックス、軽薄短小にこだわる逆戻りレコード演奏家


by bachcantata